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<title>情熱大陸＋P</title>
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<description>読む、聴く～もうひとつの「情熱大陸」へようこそ。</description>
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<title>真夏のピクニック～情熱大陸スペシャルライブへのお誘い2008</title>
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<description>　2002年から始まった夏の音楽イベント『情熱大陸スペシャルライブ～サマータイム...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　2002年から始まった夏の音楽イベント『情熱大陸スペシャルライブ～サマータイムボナンザ』。そのライブに、過去６回、毎年欠かさず参加してくれているご夫婦がいます。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;
　昨年の横浜会場。灼熱の太陽が照りつけるライブ会場の隅っこで、涼しげにシャンパングラスで乾杯をし、生ハムやオリーブをつまむカップルの姿が、ライブの取材をしていた私たちホームページスタッフの目に留まりました。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　うだるような暑さとはあまりにも対照的なその優雅な様子に引き込まれ、思わず声を掛けたお二人は、真っ白なシャツを爽やかに着こなすスレンダー美人の奥様ヨコさんと、柔らかな笑顔でその場を和ませてくれる一級建築士のご主人タケさん。恋人時代に３回、夫婦になってからも３回、これまで毎年スペシャルライブに参加しているご夫婦でした。　&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　あれから一年――。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　素敵なご夫婦が今年はどんな楽しみ方をするのかを確かめたくって、今年のスペシャルライブを前に、改めてお二人にいろいろとお話を伺ってみました。　&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　最初にこのライブに足を運んだきっかけは『ピクニック』。当時、二人の間では、お弁当を作って、お酒を持って、山や海へ出かける『ピクニック』がブーム。そんな時に、美味しい料理とお酒を楽しみながら、葉加瀬太郎さんや佐藤竹善さんら大好きなアーティストの音楽が楽しめる音楽ライブがあると聞き、初めて『夏フェス』と呼ばれるイベントに参加してみることにしたのだそうです。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　初めてこのライブに参加したとき感じたのは、その開放感の気持ちよさ。芝生に寝転び、草の匂いを嗅ぎながら、自然の風を感じる。ライブを子守唄代わりにしてうたた寝をする赤ちゃんもいれば、飛び跳ねて遊ぶ元気な子供たちもいる。お酒が入って気持ちよくなった大人たちはゴロリと横になったまま音楽を聴く。観客が思い思いの時間を過ごすことのできる、まさに『ピクニック』のようなこの雰囲気を、二人は一瞬にして気に入りました。

&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;「来年もまた来ようね」。初めて足を運んで以来、ライブの帰り道でそんな約束を繰り返すこと６回。その間、お二人はめでたく結婚もされています。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ところが――。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　当然、今年も二人で参加するつもりでいたところ、奥さんのヨコさんに仕事の予定が入ってしまい、残念ながら参加できなくなってしまいました。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;「じゃあ、タケさんはどうするんですか」&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そう訊くと、答えはあっさり「ＮＯ」。今年は参加しないのだそうです&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;「どんなに素敵な音楽が流れて、どんなに楽しくお酒が飲めるライブだったとしても、綺麗な夕焼けが会場を包んでいいムードになったときに、隣にパートナーが居ないことにはライブに参加する意味がないから」。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　一番大事なことは二人一緒に参加すること、なんですね。ひょっとすると、お二人にとってこのライブは今も昔も『ピクニック』なのかもしれません。だって、たった一人で『ピクニック』に出かける人はあまり見かけませんからね。今年、お二人に来ていただけないのは甚だ残念ですが、ぜひまた来年、会場でお会いしたいと思います。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　というわけで――。

&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　今年の『情熱大陸スペシャルライブ』は、８月２日大阪・万博記念公園、９日東京・夢の島公園の日程で行います。大切な人を誘って、ぜひ皆さんも夏の『ピクニック』に参加していただけると嬉しいです。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/files/plusp20080725.mp3&quot;&gt;MP3ファイルをダウンロード&lt;/a&gt;

&lt;/p&gt;</content:encoded>

<dc:subject>みんなの情熱大陸</dc:subject>

<dc:creator>情熱大陸</dc:creator>
<dc:date>2008-07-25T16:00:00+09:00</dc:date>
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<item rdf:about="http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/2008/07/post_6fe0.html">
<title>全日本女子バレーボール・竹下佳江</title>
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<description>　ベテランの力とは、いったいどういうものを指すのだろう。経験に裏打ちされたクレバ...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/shigematsu.html&quot;&gt;&lt;img height=&quot;125&quot; border=&quot;0&quot; align=&quot;right&quot; width=&quot;100&quot; alt=&quot;重松 清&quot; src=&quot;http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/images/shigematsu_s.gif&quot; /&gt; &lt;/a&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ベテランの力とは、いったいどういうものを指すのだろう。経験に裏打ちされたクレバーな戦術眼、数々の修羅場で培われた精神力、ここ一番での勝負強さ、あ
るいは若手の育成、さらには目先の勝ち負けにとらわれない長期的な展望、あえて汚れ役や憎まれ役を引き受ける器のデカさ、現役として残された時間が短いか
らこその執念……そんなベテランの力の中でも特に大きいのは、「悔しさを知っていること」なのかもしれない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　６月１日オンエアの竹下佳江さんの回を視聴して、つくづくそう感じたのである。
&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　周知のとおり、日本女子バレーは北京オリンピックでメダルに挑む。その原動力の一つとなっているのが、キャプテンでもあるセッター・竹下さんの存在だ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　日本代表が出場権を獲得したのは５月23日――スポーツマスコミが大騒ぎしたのは、いまも記憶に新しいところである。竹下さんを描いた『情熱大陸』は、そのお祭り騒ぎのさなかにオンエアされたことになる。　&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ところが、番組のトーンに浮ついたものは一切なかった。ナレーションにもあったとおり、とにかくめったに笑わないのだ、竹下さんは。特に髪をキリッとまとめてコートに立ったときの表情やまなざしは、撮影クルーも思わずたじろいでしまうのがわかるほどの、殺気とすら呼びたくなる迫力に満ちている。しかも、彼女の厳しさは、単純な「スポ根」ではない。もっと深い。もっと重い。番組はその深さと重さをさぐっていくのである。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　かつて世界に冠たる「東洋の魔女」だった女子バレー。男子バレーやサッカーと同様、かつての栄光の記憶が「いま」に与えるプレッシャーは相当なものだろう。特に竹下さんの場合は、メダルどころか出場すらできなかったシドニー大会の予選を戦っている。捲土重来を期したアテネ大会でもメダルには届かなかった。その悔しさに加えて、彼女の場合には、身長という、自分の力ではどうにもできない悔しさもある。テクニックやパワーをどんなに磨き抜いても、１５９センチの身長が１８０センチ台になることはありえない。そして、ネットを越えてボールを打ち合うバレーボールという競技は、どう考えたって背が高いほうが有利なのである。　&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　そんな悔しさを背負いながらチームを北京へと導いた竹下さんのドラマを、番組はことさら美談仕立てにはしなかった。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;「小さな巨人」という言葉があるとおり、スポーツドラマでは小柄な主人公が大活躍するのは定番である。そこに「大きな外国人選手に小柄な日本人が立ち向かう」という五輪ならではの物語を重ね合わせることも簡単だろう。しかし、番組は、五輪出場決定を物語のクライマックスにはしなかった。竹下さんの背負ってきた悔しさがこれで報われた、という終わり方にはしなかったのだ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　出場決定の翌日、自宅にカメラを迎えた竹下さんが満面の笑みを浮かべていれば、なるほど物語はきれいにまとまっただろう。だが、現実には、彼女は笑わなかった。番組も、その意味をきちんと受け止めていた。

&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　戦いは終わっていない。いや、むしろ、ここからほんとうの戦いが始まる。番組は、竹下さんの悔しさを「解決」させなかった。彼女はまだ背負っている。だからこそ、五輪本番では、その悔しさがチームを支える大きな力となるはずだ。今回のドキュメントを「悔しさが報われた笑顔」でまとめず、「笑わないキャプテン」の姿をまっすぐに描いた番組は、北京での戦いに臨む彼女へ最大の敬意を払ったのだと思う。ベテランは、あくまでも現役選手――戦いのさなかにニコニコ笑うことなんて、ありえないのだから。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;▼&lt;a href=&quot;http://www.mbs.jp/jounetsu/2008/06_01.shtml&quot;&gt;全日本女子バレーボール・竹下佳江&lt;/a&gt; &lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/files/plusp20080718.mp3&quot;&gt;MP3ファイルをダウンロード&lt;/a&gt;

&lt;/p&gt;</content:encoded>

<dc:subject>読む情熱大陸</dc:subject>

<dc:creator>情熱大陸</dc:creator>
<dc:date>2008-07-18T16:00:00+09:00</dc:date>
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<item rdf:about="http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/2008/07/post_c89e.html">
<title>それぞれの十年</title>
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<description>あれから十年。ようやく一人前になりました。ありがとうございます――。 　放送十年...</description>
<content:encoded>&lt;blockquote&gt;&lt;p&gt;&lt;em&gt;あれから十年。ようやく一人前になりました。ありがとうございます――。&lt;/em&gt;&lt;/p&gt;&lt;/blockquote&gt;&lt;p&gt;
　放送十年を迎えた番組からの挨拶？いえいえ、違います。先月にいただいた視聴者の方から頂いたメッセージです。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　前田暁彦さん、31歳。職業はだんじり彫刻職人。勇壮な曳行で知られる岸和田だんじり祭。その祭で使われる『だんじり』と呼ばれる西日本特有の山車の彫刻を、一つ一つ丁寧に彫り上げてゆくのが前田さんの仕事です。
&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　大学卒業を目前に控えたちょうど10年前の1998年２月に21歳で弟子入り。中卒、高卒が当たり前の職人の世界ではかなり遅いスタートでした。以来十年、木彫り一筋に打ち込んできた努力が実り、ようやく独立して工房を開くことになったのだそうです。&lt;/p&gt;&lt;blockquote&gt;&lt;p&gt;&lt;em&gt;「辛い日もありましたが、いつも心の支えとなり励ましとなったのが、毎週日曜日に放送される『情熱大陸』でした。番組に登場される人を見て 『皆、頑張っているのだから、自分も頑張らな』って思い、頑張ってきました。本当に感謝してます」。&lt;/em&gt;&lt;/p&gt;&lt;/blockquote&gt;&lt;p&gt;『情熱大陸』のスタートとほぼ同じ時期に職人の世界に入り、番組が放送十年の節目を迎えた時に独立。その間の修行の励みとなったのが『情熱大陸』だったというのですから、この十年を『情熱大陸』と一緒に歩んできた人、と言ってもいいでしょう。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　これはぜひ直接お会いしてお話を訊きたいと、大阪府岸和田市にオープンしたての工房を訪ねました。まだ表札も上がっていませんし、お祝いの白い胡蝶蘭は誇らしげに花を咲かせたままです。ただ、手元に並んだ何十種類ものノミや彫刻刀の取っ手だけが、しっかりと経験の色を浮かべています。そんな中、前田さんは終始優しい笑顔でこちらのインタビューに答えてくださいました。

&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　聞けば、高校卒業の時にも一度弟子入りを希望したことがあったらしいのですが、父親の反対で一度は断念。その後大学に進み、ごく平凡な人生を歩むはず…でしたが、転機が訪れます。大学四年の時、内定が決まっていた就職先の研修会場で鏡に映った自分の背広姿を見た途端、聞こえてきた心の声でした。&lt;/p&gt;&lt;blockquote&gt;&lt;p&gt;&lt;em&gt;「俺、自分にウソついてるわ」。&lt;/em&gt;&lt;/p&gt;&lt;/blockquote&gt;&lt;p&gt;　やはり、だんじりに関わる仕事に就こう―。そう決心すると、以前、地元のだんじりを新調する際にお世話になった親方にすぐに弟子入りを志願。気がつけば翌日には弟子として仕事場に入っていました。以来、だんじり一筋。単に彫り物の勉強だけではなく、立体的なイメージをつかんで下絵を描くために、仕事の合間を見て絵の先生のところにも通いました。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　修行、修行の毎日にもようやく慣れた頃、週に一度の休日＝日曜日に見つけた楽しみが『情熱大陸』でした。「自分と同じように夢に向かって頑張っている人がいる」。そんな人たちが葉加瀬太郎さんのテーマ曲に乗って現れる瞬間は、「凹んだ時にも、テンションを上げさせてくれる」待ち遠しい時間となりました。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　前田さんの彫刻の持ち味は、源平や戦国時代の戦記をモチーフにしたオーソドックスな味わい。しかし一方では、書道家とのコラボレーションでマンハッタンの風景を作品化するなど、『だんじり』以外にも活動の幅を広げています。

&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;「50歳になったらニューヨークで個展を開くのが夢。だんじり彫刻を日本中、世界中にもっと広めていきたい」と語ってくれた前田さん。ひょっとすると、20年後の『情熱大陸』に登場、なんてこともあるかもしれませんね。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/files/plusp20080711.mp3&quot;&gt;MP3ファイルをダウンロード&lt;/a&gt;

&lt;/p&gt;</content:encoded>

<dc:subject>みんなの情熱大陸</dc:subject>

<dc:creator>情熱大陸</dc:creator>
<dc:date>2008-07-11T16:00:00+09:00</dc:date>
</item>
<item rdf:about="http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/2008/07/9_9087.html">
<title>第9話 未来の味覚、未来の恋</title>
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<description>　これでひととおりコースは終了ですが、何かお気に召したものありましたら、また握り...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/kakuta.html&quot;&gt;&lt;img height=&quot;125&quot; border=&quot;0&quot; align=&quot;right&quot; width=&quot;100&quot; src=&quot;http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/images/kakuta_s.gif&quot; alt=&quot;角田光代&quot; /&gt;&lt;/a&gt;&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　これでひととおりコースは終了ですが、何かお気に召したものありましたら、また握りますが。白木のカウンターの向こうで板前さんが言い、陽子と尚美は顔を見合わせ、うにを、と同時に言う。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;
「うにっていえばさあ」陽子のお猪口に日本酒を注ぎ、自分のお猪口も満たし、「あんた、うに食べられなかったねえ」と尚美が言う。&lt;br /&gt;
「食べられなかった」陽子はちびりと日本酒を飲む。&lt;br /&gt;
「でもがんばったんだよねえ、要は慣れだって言って」&lt;br /&gt;
「そうよう、がんばったんだよう」&lt;/p&gt;
&lt;p&gt;　二人とも自分の口調がだいぶゆるくなってきたことには気づいていない。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;「毎晩買って帰って」&lt;br /&gt;「そう、毎晩買って帰った。三十二のときか」&lt;br /&gt;「もう十年も前になるのか」&lt;br /&gt;「早いねえ」&lt;br /&gt;「早いよう。すみません、日本酒もう一本」&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　好き嫌いはほとんどない陽子だが、うにだけがだめだった。にちゃ、とした感触と、広がる磯のにおい、けだるいような甘さが、どうにも苦手だった。けれど食べられないから困るような食材ではない。うにはいわば贅沢品だ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　ところが三十二歳のとき、陽子は自分でも驚くくらい激しい恋をした。激しい恋愛ではなく、激しい片恋だった。二歳年上の相手の好物はうにだった。いつか洗面器いっぱいのうにを食べてみたいなあと、目尻をさげて笑うような人だった。陽子は自分もうにを好きになろうと決めた。小学校のころ、給食にくり返し出されたおかげで、生のキャベツを克服した覚えのある陽子は、毎日のようにうにを食べることにした。仕事帰りに家の近所の魚屋にいく。魚屋が閉まっていればスーパー。閉店間際で、見切り品のシールを貼られたうには、千円もしなかった。箱に入ったうににスプーンを差し入れて、プリンを食べるみたいに食べた。うに丼、うにスパゲティを作ることもあった。ウエ、と吐き出すほどではなかったが、やっぱりどこがおいしいのかわからなかった。でも食べ続けた。これをおいしいと思うようになれば、自分の恋は成就すると、いつの間にか思いこんでいた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　修行のようにうにを食べはじめてから三カ月後、片恋の相手から食事に誘われた。鮨屋だった。そしてこの日、陽子はうにに開眼した。うにってこんなにうまいものだったのか！と、椅子の上に立って叫びたいほどだった。旬だったのかもしれない。見切り品のうにばかり食べていたおかげで、鮨屋のうにがとびきりおいしく感じられたのかもしれない。日本酒との組み合わせがよかったのかもしれない。あるいは、隣に座るうに好き男の、うにパワーが伝染したのかもしれない。「おいしいねえ」そう言ったら涙が出てきた。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　うに修行のたまものではないだろうが、陽子の恋はそれからとんとん拍子にうまくいった。一年後には結婚を申しこまれ、その三カ月後、籍を入れた。友人を招いての結婚パーティもした。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　結婚記念日はいつも鮨屋にいった。きみ、うにがうまいって泣いたんだよなあ、と、夫になった男は言った。あれには感激したなあ。あのとき、この人と結婚するかもって思ったんだよな。とつけ足した。うに修行、やってよかった。そういうとき、心から陽子は思うのだった。それがこの数年、おたがい仕事が忙しく、結婚記念日に鮨屋にいく習慣も立ち消えになり、会話もとぎれがちになり、そのうち同じ家に住んでいるのに顔を合わせることも少なくなり、そうして半年前、別れたいと夫が言った。ほかに好きな人ができたのだと言った。そんな、中学生じゃあるまいし、ほかに好きな人ができました、はいそうですか、なんてわけにいきますか、と思ったものの、でも、単純にそれだけが理由ではないのだろうなと陽子は思った。好きな人ができたから、こちらに愛がなくなったのではなく、愛がなくなったから、ほかに好きな人ができたのだ。にわとりたまごより歴然とした真実だ。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　煩雑な手続きを経て、離婚届を出したのは二カ月前。あと十五年ローンが残っているマンションをきみに譲る、ローンはこちらで払う、と夫は言ったが、陽子は断った。二人でそれぞれ新しい住まいに引っ越した。ずいぶん狭くなった部屋に引っ越した最初の夜、ああ私、本当にあの人のことが好きだったんだなあと、陽子は思った。過去形で思った。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　鮨屋にくるのは久しぶりだった。うには食べるのをやめようかなと思っていたが、おまかせコースで出てきたうにはやっぱりおいしかった。追加のうにも、かわらずおいしい。磯くささ、けだるい甘さ、ねっとりした触感、なぜ嫌いだったんだろう。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;「でもよかったじゃん、うに、食べられるようになったし」とんちんかんななぐさめの言葉を尚美が口にし、陽子は笑う。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;「そうだよ、あの人に恋をしなければ、このおいしさを知らないままだったよ」&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　言ってから、陽子ははっとして口をつぐむ。あの人に恋をしなければ、知らなかったままだったことの、なんと多いことだろう。眠るのがもったいないと思うほどの、夜中のおしゃべりのたのしさ。喧嘩のあとの、あの苦々しい気まずさ。自分の手を包むひとまわり大きな手の、あの安心感。だれかとともに暮らすことの不自由、不自由という名の幸福。別れたあとの穴が空いたようなさみしさと、同時に感じる不思議な安堵。相手の幸福を祈る、嘘くさいと自分でも思うほどのすこやかな気持ち。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;「ってことはさ、私たち、まだまだだね」ふいに背筋を伸ばして尚美が言う。「私、豚肉の脂身が食べられないんだけど、この先、脂身のおいしさを教えてくれる男があらわれるやもしれん」&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　あまりにも真顔で言うので、陽子は笑い出す。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;「本当だよ、私はほやをおいしいと思ったことがないけど、この先、また必死にほやばかり食べる日がくるやもしれん」&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;「そうだそうだ、乾杯しよう、私たちの未知の味覚と、未知の恋に」&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;　尚美の持ち上げた江戸切子のお猪口に、陽子も自分のお猪口をそっと合わせる。かすかな音が響く。四十二歳の乾杯に、陽子と尚美は声を揃えて笑う。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/files/plusp20080704.mp3&quot;&gt;MP3ファイルをダウンロード&lt;/a&gt;

&lt;/p&gt;</content:encoded>

<dc:subject>ゆうべの食卓</dc:subject>

<dc:creator>情熱大陸</dc:creator>
<dc:date>2008-07-04T16:00:00+09:00</dc:date>
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<item rdf:about="http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/2008/06/post_b4cf.html">
<title>大島新ディレクター</title>
<link>http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/2008/06/post_b4cf.html</link>
<description>　毎週、「情熱大陸」にまつわるお話をお届けする「情熱大陸＋Ｐ」。　情熱大陸の制作...</description>
<content:encoded>&lt;p&gt;　毎週、「情熱大陸」にまつわるお話をお届けする「情熱大陸＋Ｐ」。&lt;br /&gt;　情熱大陸の制作スタッフをスタジオに呼び、番組制作の苦労話や裏話を聞いたり、視聴者の皆さんからの質問にお答えてもらおうという企画「サロン＋Ｐ」の第3回。さて、今月はいったいどんな話が聞けるのでしょうか。ポッドキャスティングでお聞きください。&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;▼今月のゲスト&lt;br /&gt;・大島新ディレクター&lt;br /&gt;　&lt;a href=&quot;http://www.mbs.jp/jounetsu/2007/09_30.shtml&quot;&gt;『作詞家・秋元康篇』&lt;/a&gt;（2007年9月30日放送）&lt;br /&gt;　&lt;a href=&quot;http://www.mbs.jp/jounetsu/2007/11_25.shtml&quot;&gt;『編集者・見城徹篇』&lt;/a&gt;（2007年11月25日放送）ほか担当&lt;/p&gt;

&lt;p&gt;&lt;a href=&quot;http://jounetsu.cocolog-nifty.com/plusp/files/plusp20080627.mp3&quot;&gt;MP3ファイルをダウンロード&lt;/a&gt;&lt;/p&gt;</content:encoded>

<dc:subject>サロン+P</dc:subject>

<dc:creator>情熱大陸</dc:creator>
<dc:date>2008-06-27T16:00:00+09:00</dc:date>
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