右か左か
たとえば、いつも変わらない駅のホーム。見過ごしてしまいがちな人並みに、「あの人は右利き、左利き、どちらだろう」という小さな疑問を重ねてみる。手の場合は比較的見分けやすい。売店で右手でお金を出した、傘を右手に持っている、右手でメモをとった。足の場合はどうだろう。階段を右足から踏み出したら、きっと右利き。耳にも利き耳があるようだ。ほら、携帯電話を左耳にあてた。ナイショ話に左耳を差し出した。目はどうだろう。鍵穴を覗くようなシーンがあればいいけれど、ホームではちょっと難しい。
右か左かという疑問を重ねるだけで、風景がいきいきと立ち上がってくる。
駅でしばし迷うのは、エスカレーターでどちらに立つかだ。関西では左を空け、首都圏では右を空けるとよく言われる。でも、新大阪駅で東京行新幹線に向うエスカレーターに乗るときは、どちらがいいのだろう。東西相互の行き来が増えて、関西での左空けが廃れてきた気がする。
調べてみると、関西で左を空けるようになったのは、大阪万博がきっかけだという。電鉄会社が、左を空けるように駅で放送したのだ。右利きの人は手すりを右手で持つから、左空けがふさわしいと考えたと伝わる。
今、右空けが主流になりつつあるとすれば、もともと日本人に、他人とすれ違うのは自分の左側より右側という慣れがあったせいかもしれない。車がそうであるように、日本では相手に自分の右側を行かせるのがルールになっている。これは刀を左側にさげていたからで、左側ですれ違っては剣がぶつかるし、いざというとき切りつけるにも、自分の右手に相手をおいた方がいい。騎士の国イギリスでも事情は同じと、百科事典にある。一方、アメリカが右側通行なのは、右腰に拳銃をぶらさげていたからという。日本で人が右側通行になったのはアメリカの影響で、第二次大戦後だ。
右か左かといえば、キスをするときの悩みも尽きない。あなたは口づけの際、どちらに顔を傾けるだろう。
実は、これをまじめに研究したドイツの学者がいる。駅ならぬ空港で、カップルのキスシーンを観察し、記録したのだ。結果は、124組のうち80組が右に顔を傾けたという。3組に2組だ。初めてのキスでどちらか迷えば、とりあえずは右に傾けておけば鼻がぶつかる失敗が少ないといえそうだ。
右か、左か。ほんの小さな疑問が、日々をわくわくさせてくれる。ぼくは、こうした小さなわくわくの積み重ねが、自分を遠くまで運んでくれると信じている。
たとえ小さくても、今日一歩を踏み出すことが、ぼくたちを情熱大陸に導いてくれる。
2006年 09月 29日 情熱大陸の雑学ノート | Permalink




