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2009年10月23日 (金)

水泳選手・寺川綾



重松 清

「情熱」という言葉は、ちょっと誤解されているのではないか。かねがね思っている。たとえば「情熱的」というのは、エネルギッシュでパワフルな、要するに「勢いがいいこと」と同じような扱われ方をしているのだが、はたしてほんとうにそうなのだろうか?

 僕の考える「情熱」の定義はちょっと違う。グイグイ押していく勢いが衰えたり消えたりしたときにこそ問われるもの、それが「情熱」なのではないか……と、『情熱大陸』の感想文を6年半にわたって書きつづけてきた実感として思っていて、それは9月20日オンエアの寺川綾さんの物語に接することで確信へと変わったのだ。

 2004年のアテネ五輪で8位入賞を果たした寺川さんは、将来を期待されながら、長い不調に陥ってしまい、昨年の北京五輪は代表漏れして、一時は引退説さえささやかれていた。カメラはそんな彼女を追う。

 復活の物語――ジャンル分けするなら、本作はそうなるだろう。

 しかし、思えばそれは残酷な物語ではないか。復活を描くためには、その前の、沈んでいた時期をきちんと描かなければならない。たんに事実として紹介するだけでなく、本人がそれにまっすぐ向き合わなければならない。しかも、寺川さんが生きているのはアスリートの世界。「円熟」だの「ベテランの味」だのに逃げ込むことは叶わない。数字や順位という言い訳無用の物差しが待ちかまえている。そこには「必ず復活をはたす」という保証などなにもないのだ。

 今年のシーズンも、確かに一時は復活の兆しを見せていた。しかし、復活の物語のヤマになるはずの、7月の世界水泳選手権では惨敗……。

 アテネ五輪の頃の若さあふれる、怖いもの知らずの勢いは、もうない。経験を積むということは、怖さを知ってしまうということでもあるのだから。番組の中では十代の頃の寺川さんの映像も紹介されていた。インタビューに応えるはじけるような笑顔には、間違いなく若さの勢いがあふれていた。しかし、それをなつかしんでしまうわけにはいかない。現役のスイマーとして、「あの頃はよかった」だけは決して言ってはならない言葉なのだ。

 もちろん、寺川さんはそんなことは口にしなかった。代わりに、「このまま終わるわけにはいかない」ときっぱり言った。

 それこそが「情熱」なのだ、と僕は思う。勢いに任せて攻め上がっていくときよりも、むしろ正念場で踏ん張るときに求められるもの、そこから復活を期すために必要な力の源……寺川さん自身はそれを「意地」と呼び、僕は同じものを「情熱」と呼び換えているわけだ。

 寺川さんは国体で優勝した。かつての自分を彷彿させる若きライバルに競り勝っての、堂々たる復活である。

 番組としても、この優勝のおかげでひとまず復活の物語としてのハッピーエンドを迎えることができて、ホッとしている――というふうには思いたくない。それは結果論にすぎない。もちろん寺川さん自身のためにも、番組のためにも、復活の物語がハッピーエンドでまとまったことには最大限の拍手を贈りたい。しかし、たとえ残念ながら国体でも復活が果たせなかったとしても、寺川さんの真の「情熱」を番組はみごとに見せてくれた。それだけで素晴らしいことじゃないか。

 来シーズン、寺川さんは本格的な復活の戦いに挑むだろう。「このまま終わるわけにはいかない」――それは、挑みつづけるひとにとって、なにより「情熱的」な言葉であるはずなのだ。

水泳選手・寺川綾篇(2009年9月20日放送)

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10月 23, 2009 読む情熱大陸 |

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近畿大学の水泳部に所属していた方です。今はミズノに所属しています。 (ミズノスイ 続きを読む

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