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2009年9月18日 (金)

プロ・アングラー 児島玲子



重松 清

 愛し愛されているひとなんだな、と思った。

 8月2日オンエアの、プロ・アングラー  児島玲子さんの回である。

 プロの釣り師――思えば、ずいぶんややこしい職業である。「魚を海や川から捕えることで生計を立てる」という定義を使えば、漁師と同じになってしまう。「結果を出しつづけなければならない」というのも同様だろう。

 だが、言葉というのは不思議なもので、なにげなく遣い分けている言葉にこそ、しばしば本質がひそんでいる。児島さんの仕事は魚を「釣る」ことであって、 決して「獲る」ことではない。釣りの世界に「漁獲高」や「水揚げ」という言葉が遣われないのは、規模の問題ではなく、心の持ちようの問題なのではないか?  あるいは、漁業の世界でも一本釣りに特別なロマンをかきたてられるのは、僕たちがそこに「一網打尽」とはまったく逆の魚と人間との関係性を見ているから ではないだろうか?

 なんて、ガラにもなく(そしてかなりズサンな)理屈っぽいことを言ってしまった。要は、番組の中での児島さんの姿を見ていれば、それがそのまま答えにな るのだ。「釣り」とは、魚の愛し方の一つ――そう定義づければ、「魚を釣るまでは帰らない」「決してあきらめない」という児島さんのひたむきさが、すと ん、と腑に落ちる。

 もちろんプロとして結果を出さなければならない責任感もあるだろうが、画面に映った児島さんの姿は、もっと根源的な、というか、無邪気とさえ呼んでもよさそうな「まだ見ぬ魚との出会い」を待ち望むワクワクとした思いに満ちているのだ。

 たとえば、クロマグロを追って津軽海峡に赴く前、児島さんはミチ糸を何本もより合わせて太くする作業に余念がない。カメラはそのとき、足の親指まで使っ て作業をするところをしっかりと映す。実際の釣りは船の上でも、すでにそこから「釣り」という魚の愛し方は始まっているのだ、と伝えるかのように。

 釣り上げた魚を自らさばき、調理して、美味しく食べる場面もそうだ。「家を出てから帰るまでが遠足」ではないが、「釣り」とは、その前夜の期待と不安か ら始まり、「ごちそうさま」と言うまでの、まさに魚をとことんまで愛することなのかもしれない(そう考えると、「釣り」が英語でFISHINGと、魚その ものを指しているのも、なるほど、ではないか)。

 番組は、そんな児島さんの魚の愛し方を、子どもの頃の原点にまでさかのぼって描き出す。終盤、シロギス釣りに出かけた子どもたちの笑顔は、きっと少女時 代の児島さんとも重なり合うものだろう。と同時に、早世したお兄さんとのかかわりを「泣かせ」へと走らせなかったのは、プロとして生きる児島さんへの番組 からのリスペクトでもあり、エールの贈り方でもあったのだと思うのだ。そう、番組のつくり手だってドキュメンタリーのプロなのだから。

 児島さんの愛し方がたっぷり伝わったからこそ、愛され方にもリアリティが生まれる。番組中では何度となく「釣りの神さまに愛された」というニュアンスの ナレーションが出てきたが、おそらく、彼女を愛しているのは神さまだけではないだろう。プロ・アングラーの先輩やマグロの一本釣り漁師たち、さらには釣り 好きの皆さんが児島さんに向けるまなざしの優しさといったら! でも、彼女の愛に最も深く応えてくれているのは、やっぱり魚たちだろう。釣り上げられるの は魚にとっては当然不本意なはずなのに、水中から姿をあらわした魚たち、なんともいえず幸せそうに見えてくるのが不思議である。

プロ・アングラー 児島玲子篇(2009年8月2日放送)

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9月 18, 2009 読む情熱大陸 |

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» 児島玲子さん(プロアングラー)8月2日 トラックバック 情熱ロード
 プロアングラーという言葉、初めて聞きました。釣り師でもよいと思いますが・・・。 続きを読む

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