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2009年7月10日 (金)

市原隼人さんの本棚



幅允孝

 やれ草食系男子だ肉食系女子だと男女の類型化がもてはやされ、傾向と対策が日々更新されている昨今だが、流行りばかりを信じて人と付き合ってしまうと、 いつだってその後には破綻が待っている。信じるべきは自分と相手の関係であり、自分自身なのだと思う。そして、最終的にいつの時代でも好かれるのは、不器 用だけど自分に正直で、熱い思いを持ったやさしい男なのだとも思っている。

『人間・市原隼人』は、そんな男である。もちろん『役者・市原隼人』も、である。

 男臭く、やんちゃでがむしゃらな素顔のままの役も多いが、デビュー作「リリイ・シュシュのすべて」の雄一のような、弱さと鬱屈とした心を持つ少年など、彼がこなす役のレンジは広い。番組中に登場した「世にも奇妙な物語」の狂気を秘めたひ弱な大学生と、「ルーキーズ」の安仁屋のような二つの相反する役を演じるのを見ると、スティーブンソンの『ジキルとハイド』を思い出さずにはいられない。ただ演じる役の落差をもって二重人格的だからというのではない。彼が、人間だれしもが持っている様々な二面性を、演技という方法でもって戸惑いながらも不安定に抱えているということに思いを巡らせたからだ。わからないと言いながら、間違いなく彼はこれまでで役の芯(真)を掴んできた。

「理性よりも本能、理屈よりも情熱」という22歳の若者は、一方でガラスのような繊細さを持っている。そんな彼の座右の銘は“自分なり”。それは、そんな彼がこれから吸収していくであろう様々な知識や経験と、自分が信じる自分を貫く時に生じる隙間を埋める方法なのだろう。好きではないと言った芸能界を好きではない芸能人として生き抜くには、そういうことが必要なのかもしれない。“一生役者をやめない”、ファンとの直接の触れ合いからそう決意を固めた彼の目は、圧倒的に澄んで輝いていた。そんな彼の目標を考えると、それはある意味で女優・森光子なのかもしれない。『人生はロングラン―私の履歴書』は、御年89歳にして主演舞台「放浪記」が前人未到の2000回を超え、国民栄誉賞を受賞した森の自伝だ。60代、70代で死ぬまで役者を続ける人はもちろんいる。だけれども、およそ90歳まで死なずにずっと役者を続けた人というのは、ほとんどいないのではないか。年齢不詳なその存在と活動にどれだけの人が勇気づけられただろう。「いつだって、あしたがあると思って生きてきました。あしたになれば、あしたの風が吹きます。あしたを生きましょう!」と書く森と、10代20代30代以降その全てを“がむしゃら”と答えた市原に、同じものを感じることもできるだろう。

 以前、某番組で彼女が中学生からの同級生であることを躊躇無く公表し、島田紳介に「芸能史を変えた!」とまで言わしめた彼の率直さはいったいどこから来るのだろうか。ハワイでの撮影中も、ファンにまで平然と彼女のことを楽しそうに話している。地元意識や友人、仲間を愛する気持ち、本音でぶつかること、ファッション、日本語(J-RAP)への興味などを見るにつけ、彼がポジティブな意味でかつての「ヤンキー」性を持っているのだなと感じられた。『ヤンキー文化論序説』は、オタクばかりが語られる日本カルチャーのなかで、70年代以降通奏低音として確実に存在しながら見過ごされてきたヤンキーカルチャーを、改めて正面から考えてみようというものだ。ナンシー関が根本敬を経由して発した、「日本人の血からヤンキーとファンシーは絶対に消えない」をヤンキー論の嚆矢とし、マンガ、音楽(矢沢永吉から横浜銀蝿、BOOWY、そしてジャパニーズ・ヒップホップまで)、ファッション、建築までからヤンキーの要素を抽出し、分析している。自らカスタマイズし、“志”と背中にペイントしたつなぎ、同い年のボクサー亀田興毅との友情、そのファンたちからの歓待。そして、不良マンガの筆頭『ろくでなしブルース』作者森田まさのりによる、『ROOKIES』主演とそのヒット。ただ、こうしたことから感じられるのは不良やワルだというレッテルではなく、彼のヤンキー性とは、冒頭で書いた、いつの時代も愛される“不器用だけど自分に正直で、熱い思いを持ったやさしい男”のことなのだ。

 彼の評価は役者としてのそれだけではない。本人にとってそれは不本意かもしれないが、その人気は彼の人間力がそれを支えている。市原隼人が天狗になることはないだろう。常に昔を知る仲間が側にいてくれるのだから。ニュートラルな自分を忘れず、これからも素晴らしい演技を見せてほしい。

俳優・市原隼人篇(2009年5月31日放送)

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7月 10, 2009 あの人の本棚は、きっと |

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