秋本治さんの本棚
誰もが知っている日本一お調子者の警察官、両津勘吉とは全く正反対とも言えるような性格の持ち主である秋本。『こち亀』第1回目の原稿からしっかり事務所で整理保管し、事務所では9時の時報で仕事を始め、20時の時報で帰る。競馬も競輪もやらず、スタッフへのクリスマスプレゼントも忘れない。そんな彼を漫画に誘い、ぼろぼろになるまで読み込んだという本が、『石ノ森章太郎のマンガ家入門』だという。1967年に出版された『少年のためのマンガ家入門』というタイトルの復刻本であるこの1冊。良い絵の描き方ではなく、マンガ表現の方法論や可能性、そして繊細な心理描写の絡むストーリーをいかにわかりやすく読者に伝えるのかを入門書ながら丁寧に、徹底的に、教示してくれる。それはまさに石ノ森章太郎というマンガ家の核を子供達に伝える手紙のような名著。そして、『こち亀』のひとつひとつのディテールを幾重にも丁寧に積み重ねていくやり方は、こんな1冊が起源になっているのかもしれない。
秋本のマンガ作法の中でユニークな部分のひとつに、細やかな新聞の切り抜きという作業がある。新しい流行やテクノロジーに敏感な主人公の両さんの遊び道具のソースは、こんなところに転がっていたのだ。悲しい事件や不安な未来ばかりが騒がれる毎日の報道のなか、願わくば、彼が切り抜く新聞の記事が、『グッドニュース』のようにポジティブなものに彩られていると嬉しい。エコ/環境本が、(必要ではあるのだけれど)悲観的な事実を並べることが多いのに対し、『グッドニュース』は、これまでに起った、もしくは今起っている環境問題の“グッドニュース”ばかりを集めた本なのだ。ネガティブばかりを見つめるのではなく、ポジティブなことを伸ばす精神的な余裕が、秋本の仕事への意識には感じられる。
全く正反対とも言える秋本治と両津勘吉ではあるが、二人をつなぐキーワードを挙げるなら「好奇心」に尽きるだろう。秋本は、知っていると思っていた日常の風景の変化を見逃さない。取材で訪れた浅草の遊園地「花屋敷」の入口ゲートの変化に気づいたかと思えば、浅草寺の社務所の工事を宮司さんに取材している。生物学者レイチェル・カーソンが、彼女の姪の小さな息子ロジャーのために書いた『センス・オブ・ワンダー』は、ロジャーが海や森を巡り、様々な植物や鳥の声、風の音、輝く星空などに示した反応や感性を、レイチェルがやさしく表情豊かな筆致で綴った本だ。多様で細やかな生命への視線が、世界を豊かにしてくれる。そうした“センス・オブ・ワンダー=不可思議なことを感じる感覚”を持ち続けることが、『こち亀』のような超マラソン的活躍には必要なのだろう。
あれこれと秋本と両さんと本のことを考えながら見ていて、番組の最後、僕はニヤリとしてしまった。そこに映っていたテレビカメラやマイクを興味深そうに眺める秋本の眼差しは、まさしく両さんの好奇心満々のあの眼だったのだ。
4月 10, 2009 あの人の本棚は、きっと | Permalink
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漫画家 秋本治(あきもとおさむ)
Only まんが 33 years old こち亀&秋本治
代表作「こちら葛飾区亀有公園前派出所」は「週刊少年ジャンプ」にて... 続きを読む
受信: 2009/04/10 22:41:28
» 職人漫画家ですね(秋本治さん) トラックバック 情熱ロード
秋本さん、マンガの細かさ、取材が細部までわたっているのを見て、まさに職人だと思 続きを読む
受信: 2009/04/10 23:12:28






コメント
情熱大陸が大好きです。
是非、スタッフとして働かせてください。
どこでも行きます。
投稿: 浜田 秀一 | 2009/04/18 3:23:32