味の武者修行
料理人が取り上げられた時は、なるべく観ないようにしている――『情熱大陸』のファンの中にはそんな方もいらっしゃいます。
柏原卓仁(かしはらたくじん)さん。35歳。職業は他でもない、料理人。大阪府和泉市にあるイタリアン『タヴェルナ・アービー・レオーネ』のオーナー・ シェフです。少しエラの張った意志の強そうな顔立ちに人懐っこく笑う優しい目が印象的。「どうしても自分と比べてしまって、その度に悔しい思いをするの で」料理人を取り上げた回の放送はほとんど観ないのだそうです。
大阪・なんばから電車で30分あまり。泉北ニュータウンの中核・光明池駅からほど近い住宅街の一角に、一軒家を改造した柏原さんのお店はあります。日本最大級のニュータウンでありながら、付近には古いどっしりとした門構えの旧家が残る町は、昔から近郊農業の盛んな地域でもあります。その地の利を生かして地元の新鮮な野菜を使った料理がこのお店のご自慢。ハムやパンもシェフの手作りというのですから、そのこだわり方は『情熱大陸』に登場する料理人たちにだって負けてはいません。そう考えると、テレビに登場した料理人を自分と重ねてしまって「悔しい」と思う、若いオーナー・シェフの頑なな気持ちも判らないでもありません。
高校を出て、まずは和食の世界に入った柏原さんは、その後、イタリア料理に転向。23歳のときにローマを旅したことがきっかけで、日本を出て料理の勉強をしようと思い立ちます。その後、南仏モンペリエでの一年間の料理研修生の留学コースに応募して海外での武者修行をスタート。そして、南ヨーロッパの料理に共通する地場の新鮮な魚介類と野菜を使ったシンプルなのに味わい料理の奥深さに目覚めます。一時帰国したものの、働いてまた料理留学の資金を貯め、今度は修行の舞台をイタリアに移して、幾つもの都市でその街々の料理を一つずつ学んでいきました。
就労ビザで苦労したこと、キノコ料理を求めて北イタリアを食べ歩いたこと、世界中から腕を磨くために集まった若い料理人たちとの交流――そんなエピソードの数々を熱っぽく語る柏原さん。ボローニャ地方ではパスタを、ナポリの近くでは新鮮な魚介類を。いつ、どこで、どんな人から、どんな料理を学んだのか。修行先を転々としていながら、それぞれの職場での様子をほんとうに克明に覚えていて話を聞いているだけで目の前を南イタリアの潮風が吹きぬけてゆくようです。一人の若き料理人の青春が、それだけ鮮やかで強い経験だった証拠、と言えるのかもしれません。
店を開いて二年と少し、ようやく地元の人にもお店の味が定着し始めたようで、お昼ともなれば近所の奥様たちが気軽にランチとおしゃべりを楽しみにお店にやってきます。この日のメインディッシュはヘダイのオーブン焼き。そこに赤くて可愛い金時ニンジンが添えられています。ニンジンの濃厚な甘みに思わず「美味しい…」と漏らすと、細い目をゆっくりとさらに細めて「ありがとうございます!」と嬉しそうな笑顔が返ってきました。
別れ際に、今までで一番印象に残った放送を問うと、「実は…」と照れくさそうに、山形のアルケッチャーノさんと青森のダ・サスィーノさん、番組で紹介した二つのレストランの名前を挙げてくれました。自分と同じように地方や郊外でお店を開いている方たちは、どうしても気になって観てしまったんだそうです。そんな柏原さんには、ヨーロッパに続いて、今後は、私たちの大陸での料理武者修行も楽しんでもらえれば嬉しいです。
▼過去の放送
3月 27, 2009 みんなの情熱大陸 | Permalink
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