漫画家・秋本治
友だちと回し読みしていた「少年ジャンプ」で『こち亀』に初めて出会ったのは、中学2年生の頃だった。連載の第一回目ではなく、正真正銘のデビュー作になる読み切りバージョンのほうである。
ぶっとんだ。いわゆる「二頭身ギャグ」の幼さに物足りなさを感じはじめていた中坊にとって(いまなら「二頭身ギャグ」のカゲキさもよーくわかるのだ が)、絵はとことんリアルでありながらギャグはハチャメチャという『こち亀』は、まさに僕たちが待ち望んでいたマンガだったのである。あまりにも気に入っ たものだから、カネを出して「ジャンプ」を買った奴を拝み倒して、『こち亀』のページだけを切り取ってホチキスで留め、インクが裏写りしてしまうまで繰り 返し読んでいた。マジである。のちに『ちびまる子ちゃん』で花輪クンを知ったときだって、「『こち亀』の中川クンには負けてるよなあ」と思ったものであ る。
そんなわけで、2月22日オンエアの秋本治さんの回は、あの頃の自分を「おい、秋本治さんが出てるぞ! 早く早く!」と隣に手招くような気分で観ることになった。
中2のシゲマツは、「両さんを描いてるのって、こんなにマジメなひとだったの?」と驚いたはずだ。もちろん、週刊連載で33年間も休載なしという記録は心身の健康あってこそのものだとは思っていたのだが、ここまで徹底しているとは……。これはもう「真面目」ではすまない。「生真面目」なのである。
世の中のことがなにもわかっていない中2のシゲマツは、最初はちょっとがっかりしてしまったようだ。なにしろ両さんの生みの親なのだ。もっと強烈なカリスマ性を持った(たとえば赤塚不二夫のような)作者だと勝手に思い込んでしまうのも無理はない。
しかし、46歳のシゲマツの感想は違う。まったく正反対である。フリーライターの頃から数えれば24年近く原稿を書いて生計を立てている身には、秋本さんの姿は最高にカッコいい。プロ中のプロというのは、とことん「生真面目」なのである。中途半端な「真面目」ではダメだ。それではただの「面白みのないひと」になってしまう。「真面目」を突き抜けた末の「生真面目」――そこにこそ、プロの矜持があるのではないか。
「真面目」と「生真面目」の違いは、番組中に出ている。新作の取材のために浅草を訪れた場面である。車の中で秋本さんはクルーに向かって「カメラが回ってるとしゃべっちゃうから、しばらく黙らせて」というふうに言った。ここなのだ。「真面目」なひとは、カメラの前で気をつかって、ついたくさんしゃべってしまう。しかし、秋本さんはもうワンランク上の「生真面目」だから、『情熱大陸』へのサービスよりも新作の取材に集中することを選ぶ。おわかりだろうか。最初からカメラを拒むのではなく、きっちりと取材に協力したうえで、それでも最後の最後には(しかも申し訳なさそうに)作品づくりを優先させてほしい、と言うのだ。
今回の作品は、大きなイベントが軸になっているわけではない。先週がそうだったように、そして来週もきっとそうであるように、連載をつづける今週をまっすぐに描いただけだ。淡々としている。飄々ともしている。それでも、なにごとにも飽きっぽい中2のシゲマツが、いつのまにか画面を食い入るように見つめていた。わかるよ。「真面目」なひとを描いただけのドキュメンタリーは退屈になってしまうが、「生真面目」なひとの一途な姿は、やはり胸を打つし、ユーモアも生まれるのである。それって、両さんの徹底ぶりとも似ているんじゃないかな。
3月 20, 2009 読む情熱大陸 | Permalink
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