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2008年12月26日 (金)

Yさん、故郷に帰る



 今年の春、Yさんという男性からお叱りのメールをいただきました。

 とあるライブ会場で『情熱大陸』の取材現場に居合わせたのだが、その時の携帯電話の使い方はマナー違反ではなかったか、と。穏やかな言い回しではあるものの、ご立腹の様子は十分に伝わってきます。

 スタッフにもやむをえない事情があったのかもしれませんが、取材時にマナー違反があったのならお叱りを受けて当然です。いただいたメールには、お叱りに対してのお詫びとご連絡いただいたお礼を返しました。

 普通ならここまででメールのやり取りはおしまいとなるのが常なのですが、やり取りはここからもしばらく続くことになりました。Yさんの怒りが静まらなかったから、ではありません。いただいたメールの文面がとても丁寧だったことに感謝の意を伝えたところ、今度は逆にお礼のメールが返ってきたのです。そしてその後もやりとりは続き、いよいよ電話でお話しすることにまでなりました。

 電話では、改めてお詫びもしたのですが、いつの間にやら不思議と打ち解けてしまって、Yさんの趣味であるジャズ鑑賞についての 経験談をお聞きしたりもしてしまいました。 

 最初にクレームをいただいた相手とついには音楽談義に花まで咲かせてしまったとは、まことに不謹慎な話ですが、実際、大変楽しい時間となりました。このとき、はたと気がついたのです。それもこれも、Yさんに最初にいただいた言葉に丁寧さや穏やかさがあったことから始まっているのだ、と。あの時、怒りに任せた激しい攻撃調のメールをいただいていたなら、もっと違う関係になってしまっていたかもしれないなあ、と。

 そして半年余りが経って――。

 先日、Yさんからお誘いがありました。来年の春には定年退職を迎え、単身赴任先の神戸を引き払って、郷里(くに)の愛媛県に帰られるとのこと。日々、ライブハウスを渡り歩くジャズ三昧の生活から身を引くのを前に、一度お会いすることにしたのです。

 初めて会うYさんは、ジャズの似合う素敵な初老の紳士でした。話題もやっぱりジャズのこと。仕事としてジャズの世界を志したこともあったが断念したこと。それだけに若いミュージシャンたちを見るとどうしても応援したくもなること、等々。やや高めの、張りのある声を通していろんな話を伺いました。 

 その中にこんなエピソードがありました。悩んだ末にジャズの世界には入らないと決めたYさんが「つまらないことで心配を掛けてすまない」と仲間に頭を下げたときのこと。ある有名なトランペッターは、こんな風にYさんのことを温かくたしなめたそうです。

「つまらないことじゃない。ジャズをやるか、やらないか悩んでいることの、どこがつまらないんだ?本気、じゃないか」。

 たとえそれが世間から見て目立たないような決断であったとしても『つまらない』ものなんてない。本気で取り組んでいることに『つまらない』ものなんてないはずだ。私たちの番組にいただいた優しく厳しい言葉の原点は、ひょっとするとこの言葉の中にあるのかもしれません。

 意外にも「お酒は強くない」というYさんは、ブラック・コーヒーを飲み終えると、年末のあわただしさの漂う雑踏の中に消えてゆきました。来年は、ふるさとのお家で観ることになるテレビで、私たちの番組に『本気』を感じてもらえるといいなあ。そんな想いでYさんの背中を見送ったのでした。

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12月 26, 2008 みんなの情熱大陸 |

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