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2008年11月21日 (金)

ブックディレクター・幅允孝



重松 清

「カタカナ職業」という言い方がある。

 1980年代から90年代初めにかけて、要するにバブル崩壊のあたりまで、盛んに使われていた。いかにも時代や流行の最先端をいくオシャレな職業というイメージである。コピーライター、CMプランナー、アートディレクター、ハウスマヌカンなどが、その代表例だろうか。

 だが、そこには憧れと同時に、ビミョーな揶揄が含まれていたことも忘れてはならない。なにやら得体が知れないではないか。語感がオシャレなぶん、ウサン臭さもあるではないか。まったく新しい職業、いわばカタカナ・オリジナルだった場合には、特に。

 10月19日オンエアの幅允孝さんも、カタカナ職業である。ご自分でつくりだして、自ら名乗った、カタカナ・オリジナルである。ブックディレクター――番組予告でその言葉を目にしたとき、最初は「ブックデザイナーの間違いか?」と思ったし、「『編集者』をカッコよく言い換えたんだろうか」とも思っていたシゲマツなのである。

 ブックディレクターとは特定のテーマに沿った本を選んで本棚に並べる仕事なのだと知ったあとも、まず感じたのは――幅さん、スタッフの皆さん、ごめんなさい、「どうもアヤしい男だなあ……」という思いだった。

 もちろん、僕だって本の世界の片隅にいる男である。本を選ぶことや並べることには単なる趣味やセンスを超えた奥深さがあるのは、よくわかっているつもりだ(だからこそ、昔から「本棚を見ればその人がわかる」と言われるのだし、雑誌でも著名人の本棚拝見といった企画が定番になっているのだ)。また、個性的な棚づくりをして売り上げを伸ばしたカリスマ書店員も何人も存じ上げている。

 だが、本選びや棚づくりじたいをを「プロ」の仕事としてやっていくというのは……。

 中年オヤジの発想はまことに情けないもので、カタカナ・オリジナルの若い連中を見ると、まずなにより「マジに食っていけるのか?」と思ってしまう。「小遣い稼ぎ程度でプロのつもりになるんじゃねえぞ」と意地悪くつぶやいてしまう。それがまったくの(ヒガミ交じりの)言いがかりだったことは、オンエアされた番組を観ればよくわかった。なるほど、こういう需要があるのか、とビジネス・ドキュメントとしてもとても興味深かった。

 しかし、中年オヤジのツッコミはまだつづく。「いまはいい。でも、20年後や30年後は、この仕事はどうなってる?」――ブックディレクターの需要がいま以上に増えて、職業として認知されるのか、幅さんは第一人者でありつづけるのか、あるいは、すべてがその逆になってしまうのか……。これについては、僕にはなんとも言えない。

 それでも、彼ならだいじょうぶだよな、と思わせてくれるものが、幅さんの物語には確かにあった。幅さんは本を選ぶ前に読んでいる。そして、自分が少年時代に買った本や雑誌のことを、どこの本屋さんにどんなふうに売られていたかまで、ちゃんと覚えていて、それをほんとうにうれしそうに話してくれる。そのシーンを観たときに、ああ、このひとは信じられる、と思ったのだ。幅さんのカタカナ・オリジナルは決して見た目の新奇さだけを狙ったものではない。地に足が着いている。なぜ自分が本にかかわるかという根っこの部分が、ちゃんと、しっかりある。そこに担保されたカタカナ・オリジナルは、真の意味での「新しい仕事」になる。

 オレたちが思いつきもしなかった「新しい仕事」を切り拓く幅さん、がんばれ――と、中年オヤジはコロッと応援団に回ってしまったわけである。

ブックディレクター・幅允孝篇(2008年10月19日放送)

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11月 21, 2008 読む情熱大陸 |

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