樹木医・荒田洋一/展示デザイナー・木下史青
2003年4月から始まったこのコラムも、今回で丸5年という長期連載になった。いまでは「毎週日曜日に『情熱大陸』を観る」というのがすっかり生活の サイクルに組み込まれている。プロデューサー氏からは毎月、1カ月分の作品を収めたDVDが送られてくるのだが、それはあくまでも原稿を書くための確認用 という位置づけである。「日曜日の夜」というオンタイムの視聴が持つリアリティを大切にしたいという姿勢でいままでコラムを書いてきたし、6年目からもそ うでありたいと思っている(ついでに原稿を書き上げるのも締切をきちんと守りたい……のだが)。
しかし、今回は例外中の例外。DVDが届く前から「この2本をつづけて観たらどうなるだろう」と楽しみでしかたなかった。
3月23日オンエアの樹木医・荒田洋一さんと、翌週30日オンエアの展示デザイナー・木下史青さんの2本である。決して「合わせ技で一本」という発想ではない。どちらもオンエア時に観て深い感銘を受けたからこそ、この2本をつづけて観ることでさらに感動が深まるのではないか、と考えたのだ。
世界自然遺産・屋久島の樹木を守る荒田さんと、芸術作品をいかに美しく見せるかを考える木下さん――自然と芸術という対照的なフィールドでも、両氏の向き合うものの根っこは同じだ。荒田さんは番組の中で、樹齢1800年の杉の再生に取り組んだ。一方、木下さんの回の中心になったのは、1300年前につくられた国宝・日光菩薩と月光菩薩の展示だった。いずれも、向き合うものは「時間」――それも、人間の一生から見ると気が遠くなりそうな悠久の時である。
1800年を生き抜いてきた巨木の寿命を延ばし、文字どおり「遺産」として未来へと受け渡そうとする荒田さんは、屋久島を訪れた観光客が杉を見上げて感嘆の声をあげるのをうれしそうに聞いていた。1300年もの間ひとびとを感動させてきた菩薩像の美に、最新の照明を駆使して文字どおりの「新たな光」を当てた木下さんもまた、展覧会を訪れたひとびとが菩薩像を食い入るように見つめる光景を、遠くからうれしそうに眺めていた。
いや、そんな達成感や満足感ですら、二人の情熱のごく一部にすぎないのかもしれない。
荒田さんの治療によって命ながらえた巨木は100年後のひとびとにも感動を与えるだろう。しかし、そのとき荒田さんは、この世にはいない。あるいは、菩薩像の美しさに胸震わせたひとびとの中で、その美しさを演出してくれた展示デザイナーの存在に気づくひとはごく少ないはずだ。
それでもかまわない、と二人は迷いなく言うだろう。そもそも、そんなことなど思ってもいなかったと、きょとんとするだけかもしれない。目先の達成感や自分自身への称賛などにこだわってはいられない。なにしろ向き合っているのは悠久の時間だ。1800年間生きてきた巨木の命を、ここで断ち切ってしまうわけにはいかない。1300年間の歴史が降り積もった菩薩像の美を展示の失敗で損ねてしまうわけにはいかない。二人の仕事を真に称えてくれる相手は、もの言わぬ巨木や菩薩像――そして、悠久の時そのものなのである。
荒田さんが番組の最後に口ずさんだ『明日にかける橋』は、そのまま翌週の木下さんのBGMにも使える。老若男女が博物館で憩う風景が好きだと言う木下さんの思いは、森の巨木や校庭の木に寄せる荒田さんの思いにもきれいに重なる。そんな二人のドラマをつづけて観ると、僕たちは「過去」から渡されたバトンを「未来」につなぐ役目を負っているのだと、あらためて噛みしめたくなるのだ。
4月 18, 2008 読む情熱大陸 | Permalink
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