ブックデザイナー・祖父江慎
確かに、表面的にわかりやすいライバルとの対決の場面は出てこない。むしろ、祖父江さん独特のホンワカした雰囲気は、「対決」というトゲトゲしさとは正反対にあるべきものだろう。
しかし、僕は確かにこの作品に「対決」を見た。それもプロとプロがお互いの誇りを賭けた緊張感あふれる死闘である。
番組の中盤、本の表紙を裏返して製本するという常識破りのアイデアを出した祖父江さんに、印刷所はひたすら困惑する。祖父江さんのオフィスに直談判に訪れた印刷所のひとは、いかにも実直そうで、悪く言えば融通が利かなそうにも見える。彼らにとって祖父江さんのアイデアは、いままでの自分たちの仕事の常識をひっくり返す暴挙だったのだ。
打ち合わせは、最初から最後まで祖父江さんペースで進んだ。さすが祖父江さん、自分のやりたいことを押し通すときにも、決してストレートに主張はしない。ある意味ではのらりくらりと、にこにこと愛想良く笑いながら、しかし断じて譲らないのである。最後は印刷所も折れた。「まあ、やってみますけど……」と、いかにも不承不承という感じだ。
ブックデザインとは、頭の中だけでできあがるものではない。どんなに斬新なアイデアでも、それが一冊の本という具体的なモノに仕上がらなければ、なんの意味もない。はたして祖父江さんの自由奔放なアイデアは、実現するのか……。
祖父江さんは印刷の仕上がりをチェックするために静岡県の工場まで出かける。待ち受けているのは、先日の印刷会社のひと。ちょっと疲れた様子で、決して愛想をふりまくわけではなく、それでもなんとも言えないイイ顔をしている。
やってくれたのだ。祖父江さんの出した奇想天外なアイデアを、きちんと実現させてくれた。職人のワザである。さらには、自らミリ単位の微調整を申し出て、より完璧に近づけていく。職人の誇りである。祖父江さんの物語の中では、印刷会社のひとはあくまでも脇役である。しかし、その脇役の戸惑いがあってこそ、祖父江さんの発想のスゴさがわかる。そして、とんでもない発想を職人さんがみごとに形につくりあげてくれたからこそ、「本をつくること」そのものの面白さも僕たちにひしひしと伝わってきたのだ。
まことに伸びやかで童心あふれる祖父江さんの魅力は、もしかしたら祖父江さん単独で描くと、かえって伝わりづらいかもしれない。とらえどころがなく、あっけにとられるだけで終わってしまいかねないのだ。
どこまでも自由な天才肌の魅力は、実直で腕利きの職人さんと向き合うことで、より輝く。ひとつまみの塩が逆におしるこの甘みをひきたてるように、印刷会社のひとの生真面目さが心地よい対照の妙をつくってくれたのである。
それにしても、あの印刷会社のひと、ほんとうに真面目だったなあ……。
3月 21, 2008 読む情熱大陸 | Permalink
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コメント
ひとつまみの塩。
その効果を実感しつつも
「それが何だったのか」気がつきませんでした。
すばらしい作り手と
その作品から さらに焦点を絞り込む視点。
「情熱大陸」という言葉そのものの世界が
そこに在りますね。
投稿 tonerico | 2008/03/24 11:05:38
hello, I am a Korean doctorate student studying in California, the United States. I am sorry for writing in English, but I am a big fan of Jounetsutairiku from abroad. Today I watched your episode of Book designer Sobue Shin. I have been always fascinated by Japanese publication industry and this was a great episode. I completely agree with you about the effect of putting "main role" of story and "opposing person" together. It was striking how these two people (and maybe even the editor) work together differently with own ideas and passion. I am also fascinated by your effort of bringing the craftmanship to the screen. Thank you for the great episode and I will look forward more of great stores of Jounetsudairiku.
投稿 seo young | 2008/04/08 12:25:10