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2008年2月29日 (金)

その男、KYにつき

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中野伸二プロデューサー

 こういう言葉を使うこと自体、本当はすごくイヤなのですが、近ごろ【KY】という言葉をよく耳にします。

"K"uuki-"Y"omenaiひと=【KY】。

 とかく今の世の中、【KY】は疎まれます。厭われます。避けられます。嫌われます。【KY】の烙印をおされてしまったら人生はおしまい、とは大げさでしょうが、多くのひとが周囲の空気を慎重に見極めながら自分がどう行動すべきかを決定しています。

 そして、僕もそのひとりです。

 テレビ番組の制作にあたる人間は、空気を読む能力に長けている必要があると思います。視聴者が求めているものを誰よりも敏感に察知し、すばやくかつ適確にその求めに応える番組を作れれば、その人間はきっとヒットメイカーになれるに違いない、そしてそうなった方がいい――と、思っていました。先日まで。

 先日というのは、2月3日にオンエアした『ブックデザイナー・祖父江慎篇』をプレビューした日です。『情熱大陸』の場合、担当ディレクターが編集したVTRをプロデューサーの僕が見て構成などを練り直す、このプレビューが放送までに3~4回行われます。最初のプレビューでは、編集はまだザックリとしていて、実際の放送時間の倍近くの長さで見ることがままあります。

 先日の祖父江慎篇の最初のプレビューもそうでした。

 祖父江さんは、失礼を承知でいえば典型的な【KY】でした。原稿の締め切りを守れず、担当の編集者は大晦日の夜だというのに事務所で待機するはめになっていました。新刊本の装丁の打ち合わせの席でも、表紙の裏表を逆にするというとんでもないことを思いつき製本工場の技術者を困らせていました。子供のころ友達と野球をした話をきけば、打ったとたんに三塁に走り出してみんなから怒られたとも――。筋金入りの【KY】です。

 プレビューは進行し、場面は変わっていきます。祖父江さんがロケのさなか森で遊び始めるシーンになりました。祖父江さんが小川にたたずんでいます。そして、川面に広がる波紋を見ながら、
「うにょにょ~んがいっぱいある」
と語り始めました。さらには、道に寝転がって排水溝に顔をくっつけます。
「この下には、かなりのでかいうにょにょ~んがありますよ!」
そう言うと、やおら駆け出しました。

 それを見ていて、僕は涙が出てきました。

 たしかに最初はその【KY】っぷりがおかしかったのです。笑えたのです。でも、見ている途中にはたと思ったのです。勝手に思いを巡らせたのです。

 祖父江さんはこれまでの人生の中でどれほどの闘いを強いられてきたのだろう。どれほどの迫害に立ち向かってきたのだろう。【KY】であり続けることは、ある意味、海図をもたずにひとりぼっちで航海を続けるようなものではないか。そして、そんな【KY】な人間でなければ新しい大陸など発見できないのだ、と。

 プレビューが終わったあと、なかなかディレクターへの指示の言葉が出てきませんでした。ようやく言えたのはこんなこと――

「こういうひとがちゃんと幸せでいられる世の中の方がいいよなぁ」

 その場でのプロデューサーの発言としては、かなり見当違いです。でもスタッフはみな、そんな【KY】なプロデューサーを笑ってくれました。

 泣いていたことがバレなくて良かった。

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2月 29, 2008 プロデューサーからの手紙 |

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コメント

はじめまして。わたしは40歳を前に初めて上京し転職をしました。周りは、年取った新人があつかいづらそうで、私をなにかのタイプで分類する際「フシギ系」「テンネン」(ふるっ!)と言います。地方にいたときは、言動や多動におおらかに理解を示してくれていた恋人や友人、家族がいたのですが、私はおかしいのだろうかと悩んでいます。周囲とうまくいかないよりうまくいったほうがいいです。空気は、自分にあうかどうかだけが読むというより察知できます。それからはぐっと入ったり、全く身を引いたりするだけで、自分を抑えて合わせることが苦手です。一人でも近くに理解者がいてくれたらいいのですが、自己肯定にも限界を感じています。あっいいないやだなと感じたらすぐに口にしてしまいます。すぐに行動します。主観が過ぎる。思い入れが強すぎる。もっとロジカルに。仕事だから・・・。と言われてもなかなかできず自分はバカではないだろうか。ひとがスイスイできるところがひっかかって進めないときがあります。土日にひとりで自分を肯定する作業を行い、また一週間が始まろうとしています。ちょっと企画書なんて書いてみて普通の仕事人になれるようウォーミングアップしています。ロジックで武装するひとや私を非難するひとを包括して愛さないといけないのでしょうか。それがKYの底力のような気がします。まる無視でもいいんだけどな。

投稿 kozu | 2008/03/02 22:57:51

祖父江慎さんについて、
「装丁の第一人者」
以外の予備知識がなかった分、
この時のオンエアーは衝撃的でした。

仕事の場で。
自然の中で。
家庭の中で。

衝撃ではあったけれど、
そのあまりにも無垢であることに
心がぬるむような感覚をおぼえました。

先入観を見事に裏切られる、
そんな「作品」ができたのは
情熱大陸だからこそだったと思えます。

祖父江さんが
一線で活躍される、この世の中。
うつくしいものが存在することに
わたしは希望を感じます。


投稿 tonerico | 2008/03/03 11:09:22

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