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2008年1月18日 (金)

女子大学長・坂東眞理子

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重松 清

 正直に打ち明ける。

 最初は、決して好きなひとではなかった。

 いや、「好き」も「嫌い」もなく、そのひとのことはなにも知らなかった。ただ、そのひとが書いた本のタイトルに、ひっかかっていた。『女性の品格』―― 言わずと知れた2007年最大のベストセラーなのだが、その「品格」の一語に、たとえば「美しい国」とも通じる観念論のウサンくささを感じてしまったので ある。

 誤解だった。

 昨年12月23日にオンエアされた『情熱大陸』――坂東眞理子さん自身の「品格」は、徹底して具体的だった。現実的だった。日々の生活や、ニッポンの戦後とほぼ重なり合う坂東さんご自身の人生に、しっかりと根差したものだった。

 カメラは、忙しい坂東さんの日常を「ばたばた」ぶりを隠さずに伝える。マイクもオフ音をしっかり拾う。しーんとした静かな学長室で「品格」についてじっくりとうかがいます、というスタンスではない。坂東さんの髪の寝癖、ジャケットから取り忘れたクリーニング店のタグ、スーツ姿のままで手早くつくる盛り付け不問の大胆かつ豪快な料理、窓辺に掛かったままの洗濯物……カメラがとらえたディテールの数々は、一見、「品格」ブームの生みの親に対して「ご本人はどうなの?」というイジワルな問いを突きつけているように見える。しかし、決してそうではない。スタッフは正しく「品格」の真意を理解していたのだろう。だからこそ、「ばたばた」の描写がつづけばつづくほど、坂東さんの姿が魅力的になる。細い目でにこにこ笑う坂東さんの笑顔に惹きつけられる。そして、「品格」とは上から押しつけるお説教でもなければ、内実がからっぽの観念論でもないんだ、と気づかされるのだ。

 取材にあたっての坂東さんのフェアな覚悟を感じたシーンがある。坂東さんが学長をつとめる昭和女子大学での講義中のことだ。いかにもいまどきの(つまり「品格」がない、とオトナたちから批判される)女子大生たちは、坂東さんが教壇に立ってもざわざわしたままで、話をろくすっぽ聞いていないのが察せられる。すると、坂東さんは急に怒りはじめたのだ。特に目に余った学生に「出て行ってください」と命じたのだ。怒りを必死に鎮めるかのように水をごくごく飲みながら。

 私大の学長という立場を考えれば、そんな場面をカメラの前でさらすことは得策ではない。番組としても。ほんわかとした笑顔の坂東さんのイメージをくつがえしかねないこの場面の扱いは悩みどころだったのではないか。しかし、坂東さんはきちんと叱った。スタッフも、それをきちんと番組の中で使った。「品格」とは断じて世俗を超越したものではないのだ、と訴えるかのように。

 いや、実際、女性キャリア官僚としての苦労や、子育ての葛藤など、坂東さんは自分の弱い部分も包み隠さず明かす。働く女性、働く妻、働く母親……その喜びと苦しみを両方わかっているからこその「品格」なのだ。

 そして、いま、思った。僕が『女性の品格』を「読まず嫌い」していた最大の理由は、「男性の品格=生きざま」「女性の品格=行儀作法」というサイテーの区分けをしていたからではないのか……。

 自分のつまらない誤解を反省しつつ、こんなことも思う。『情熱大陸』というのは、もちろん、そのひとの「情熱」を描く番組である。それはつまり、そのひとの「素顔」を描くことでもある。寝癖のついた坂東さんの「素顔」はほんとうに魅力的だった。強い部分も、弱い部分も、ひっくるめて。

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1月 18, 2008 読む情熱大陸 |

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