陸上監督・川本和久
第一印象――申し訳ないけれど、あまりよくなかった。押しつけられることが大嫌いで根っからヘタレのシゲマツ、ジャージやスウェット、ウインドブレーカー姿の体育会系の監督を見ると、半ば条件反射的に反感を抱いてしまうのだ。
なぜって、ああいうひとたちってのは、とにかくやたらとアクが強くて、ゴリ押し一辺倒で、精神論をふりかざしたり、選手の私生活にずかずかと踏み込んで きたり……。で、そういうオッサンたちというのは、しばしば「指導」と「教育」をはき違えて、「ワシのやってきたことこそがすべて!」と教育論だの子育て 論などを書いてみたりするものなのである。それがまた売れてしまうのである。まったくもってサイテーではないか。
5月13日オンエアの陸上監督・川本和久さんも――ほんとうにごめんなさい、川本さんの顔が最初にアップで映った瞬間、コワモテの迫力にビビりながら、「オレの嫌いなタイプかも」と思ってしまったのだ。
だが、その第一印象はみごとにくつがえされた。川本さんは精神論めいたものなど一言も口にしない。武器にするのは理論――しかも、番組の制作スタッフは、その理論に基づく実践の記録も、サイエンス番組さながらのわかりやすさで見せてくれた。地面の反発を利用する走り方、なるほど確かに言われてみれば理にかなっているし、実際に記録が伸びた高校生のフォームは、たとえタイムの比較がなかったとしても、素人の目で見ても明らかに指導後のほうが伸びやかで力強い。僕は番組が終わったあと、思わずリビングで川本理論のランニングフォームを真似て足踏みしてしまった。僕以外にもそういうひと、きっといるはずだ。その時点で、まずは番組は大成功だろう。「情熱」とはじつに曖昧模糊としたもので、ややもすれば単純な精神論と重ね合わされてしまう。しかし、ほんとうの「情熱」とは、その根っこを冷静さや確かな裏付けが支えているものなのだ。
番組の後半は、走り幅跳びの日本記録保持者・池田久美子さんと川本さんとの師弟関係を軸に進んでいく。
だが、その前に、川本さんはカメラの前でぽつりと、こんなことを言っていた。
「陸上は『記録』のモチベーションがあるけど、柔道なんかは金メダルを獲ったあと、どうするんだろう……」
番組の構成としては前半と後半をつなぐブリッジにすぎない存在感だったが、僕はその一言にこそ「指導」の真骨頂を感じたのだ。
柔道などの「相手に勝つ」競技とは違って、記録を目指す陸上競技は、もちろん順位という相対的な評価はあるにしても、「自分のベストを超えていく」競技だ。つまり、今日の自分が戦うべき相手は、昨日までの自分――そうなると、日本記録を持つ池田さんの「指導」と、番組がセッティングした高校生の「指導」とは、「自分が自分を超える」ことについては等価になる。
だからこそ、川本さんの浮かべた二つの笑顔が忘れられない。
一つは、自己記録を伸ばした高校生を、やったな、と称える笑顔。
もう一つは、池田さんが大会で手応えの感じられるジャンプをしたときの笑顔(助走の途中まで池田さんを追いながら、跳躍のときにはすうっと川本さんに移動したカメラワーク、おみごと!)。
どっちも、ほんとうにいい笑顔だった。レベルの違いはあっても、「昨日までの自分を超えた」ことを同じように喜んでくれて、称えてくれる指導者――信じられるよね、このひとのことは。
6月 22, 2007 読む情熱大陸 | Permalink
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/151343/15518121
この記事へのトラックバック一覧です: 陸上監督・川本和久:





